映画「タンジェリン」監督・キャスト、あらすじ・感想 パステルカラーで彩られアイロニカルに

映画「タンジェリン」監督・キャスト、あらすじ・感想 パステルカラーで彩られアイロニカルに

スマホだけで撮影した話題作で、スマホらしさがあるもののそれがまた味を出している。

メインの登場人物は3人なのでアメリカ社会の縮図をみているわけだけれど、そこには多民族国家アメリカ全体へのメッセージを感じる。

そして、そのメッセージがパステルカラーで彩られていることでがアイロニカルにも見えてくる。

作品情報

製作年 2015年

製作国 アメリカ

上映時間 88分

ジャンル ドラマ

監督

ショーン・ベイカー

キャスト

キタナ・キキ・ロドリゲス(シンディ)

マイヤ・テイラー(アレクサンドラ)

カレン・カラグリアン(ラズミック)

あらすじ

クリスマスイブのロサンゼルス。

トランスジェンダーの娼婦シン・ディは恋人が浮気していることを知って怒り狂い、浮気相手を見つけ出そうと躍起になる。

そんな中、シン・ディの親友で歌手志望のアレクサンドラは、カフェでのライブを目前に控えていた。

一方、アルメニア移民のタクシー運転手ラズミックは、自らの変態的な欲望を満たそうとし…。

感想・考察

スマホだけで撮影した話題作 アメリカ社会の縮図をみているよう

数々の賞を獲得した今作。スマホの隆盛は肌で当然感じているところではあるけれど、ここまでの完成度とは感嘆。もちろん、他の作品と比べれば画質やフォーカスの際に見られる”スマホらしさ”というのは確かにある。それを加味して鑑賞すれば十分に楽しめる仕上がり。

今作はスマホという撮影方法もさることながら、脚本こそ評価される所以があると思う。舞台はアメリカの娼婦やたむろするストリート。アメリカといえば多民族国家として知られていて様々な民族が混在しているのだけれど、今作のキャストも実に様々。すると、何が起こるのかといえば、その分文化やセクシャルな問題が浮き彫りになってくる。そんな浮き彫りになった三人の男女を軸に描かれている。

トランスジェンダーの娼婦シン・ディ、彼女の友人で歌手志望のアレクサンドラ、アルメニア移民のタクシー運転手ラズミック。性別も人種も価値観も違う三人。彼らを見ていると、アメリカという社会の縮図を見ているようだった。というのも、今作は特定の小さな地域の話であるものの、アメリカ全体を見てもこのような世界観で構築されているのだと思ったから。是非論で語っても仕方ないのだけれど、単純に様々な文化がミックスされているのは素敵なことなんだなあと。

様々な価値観が混在することは混乱を招くことにもなるということも今作からはわかる。シン・ディの恋人の浮気疑惑から連鎖的に様々な人々を巻き込み複雑でシリアスな問題へ発展していくことになるのだけれど、文化や価値観がある程度一貫している地域ではここまで連鎖的な揉め事には発展しないはず。しかし、この地域では混在していることで様々な問題に発展していく。それをコミカルタッチで描くことで普遍的なことだと伝えているので、善悪というより多様化した社会はこういう問題を孕まざるを得ないということを示唆させてくれる。すると、今作は本体ならばシリアスな浮気というテーマをコミカルに置き換えることで、観客を選ばない裾野の広い作品になっているようにも思う。

世界の片隅で起こっていることをリアルに

ショーン・ベイカー監督といえば「フロリダ・プロジェクト」は秀作だったけれど、今作からの飛躍が凄まじい。今作ももちろん良作ではあるのだろうけど、2年間でここまで差が出るというのが驚きで、今後ももっと素敵な作品を作り出してくれるのではないかと期待する。

彼の作風は、世界の片隅で起こっている、いわば何気無い日常を映しているのなのだけれど、実際内容はシリアス。それをパステルカラーで彩ることで、少しアイロニカルにも見えてくるのだけれど、それが現実というのもわかりやすい。”インスタ映え”というワードは見聞きに久しいわけだけれど、まさにそんな感じで、見かけは美しいけれど実態は薄味の生活という皮肉が見えてくる。

その現実世界と映画も含めた仮想世界とのギャップを異常に広げるのが上手い。その強烈なコントラストが彼の作品の面白さであって、彼のメッセージにも感じてくる。だから、単に美しい映画ではなくで、メッセージに深みがあり、心に刺さる。

 

Amazon.co.jp