今作はそれまでのティム・バートンの作品とは異なり実話に基づく作品だが、本当に”ティム・バートンらしさ”がないのか。
否、実話という普遍的な題材だからこそ彼らしさが出てくると感じる。
男尊女卑の鬱憤もラストで心地良く昇華し、めでたし。
作品情報
制作年 2014年
制作国 アメリカ
上映時間 106分
ジャンル ドラマ
監督
ティム・バートン
キャスト
エイミー・アダムス(マーガレット・キーン)
クリストフ・ワルツ(ウォルター・キーン)
ダニー・ヒューストン(ディック・ノーラン)
ジョン・ポトリ(エンリコ・バンドゥッチ)
あらすじ
1960年代アメリカのポップアート界で人気を博した「ビッグ・アイズ」。
実在の画家マーガレット、ウォルター・キーン夫妻の間に起こったドラマ。
悲しげで大きな目をした子どもを描いたウォルター・キーンの「ビッグ・アイズ」シリーズは、ハリウッド女優たちにも愛され、世界中で大ブームに。
作者のウォルターも美術界の寵児として脚光を浴びるが、実はその絵はウォルターの妻マーガレットが描いていたものだった…。
感想・考察
今作は本当に”ティム・バートンらしさ”がないのか
まず、今作の特筆すべきは ”ティム・バートンらしさ” について。
今まで彼の作品は「シザーハンズ」、「チャーリーとチョコレート工場」、「アリス・イン・ワンダーランド」、「ビッグ・フィッシュ」 と有名どころは拝見してきた。
それらにあった”ティム・バートンらしさ”、”ティム・バートンワールド”的なものが、今作では感じる事ができなかった。
それは、良くも悪くも。
もちろんのどの作品が好きか嫌いかはあるけれど、是非ではない。
彼の特徴は、やはりファンタジックで芸術的な作風。
映画であるからには、あくまでアーティファクトであり人工的な作品ではある。
けれども、大人であっても何処か魔法の世界に連れて行ってくれるような錯覚というか夢物語を映画の中に見せてくれるから、心を掴まれる。
言い換えれば、虚構が過ぎるので非常に映画的な映画が多い。
それが彼の持ち味であり、僕が好きな理由の1つ。
しかし、今作は実話ベースということもあり、それがない。
しかし、それが見心地を悪くさせるのかといえば、全くそんなこともないのだから、彼の映画は高貴だ。
普遍的な題材だからこそ彼らしい
実話ベースといえば、いわゆる普遍的な作品だ。
それは、どの映画監督にも、その題材を使って映画を撮る事ができるから。
けれども、普遍的であるが故にこれをテーマにするのは難しいのではないかと感じる。
「ビッグ・アイズ」というテーマを選ぶのは、彼だからできたのかもしれない。
つまり、矛盾しているけど彼らしい題材にも感じた訳だ。
だって、この 実話=映画 になると他の監督ならなるだろうか。
僕は映画監督でもないし、いわゆる普遍的な人間だからこそ思う。
これが普通は映画になるとは思わない。と。
だから、彼の特徴であるファンタジックな作風ではないけれども、”彼らしい”と思う。
ウォルター・キーンの真意は
僕は事件ことも知らないし、あえて調べずに、これを書いている。
そのため、齟齬があるかもしれないから、あくまで憶測。
ウォルター・キーンは出会った直後にマーガレットを口説きデート、結婚という運びになった。
その報告を聞いたマーガレットの友人が「二回デートしている間に!?」と驚きを表現する。
マーガレットは離婚直後・娘を父親が引き取るということもあったけれども、確かに早過ぎる気もする。
しかし、これは二人が本質的に惹かれあった結果であると思う。
作中には、初めからキーンは彼女の絵を狙って結婚したという趣旨で描かれていたが、僕はそうは思わない。
いくら時間も金もあっても結婚するのは大変だし(したことないから知らんけども)、いくら彼女の絵が売れるからという理由で結婚などできるものではないと感じるから。
しかも、その確証もない。
すでに目が出ているのであればわかるけれども、その時の彼女は自分の絵を1ドルで売るような女性だし、展示しても目をくれられることもほとんどないかった。
すると、今作は極めて純愛を描きながらも、そんな純愛が崩壊していく恐怖を描いた作品でもある。
そんな物語を選び、映画で具現化してしまうのだから、やはり彼は高貴だ。
男尊女卑の鬱憤もラストで心地良く昇華
時代物の作品には、男尊女卑の背景を映画に織り交ぜている作品がたくさんある。
1950〜60年代の作品ということもあり、今作も男尊女卑について例外ではない。
最初にマーガレットが家を出たのもキーンから逃げ出したのも、男性側の抑圧によってだ。
結果、彼女は二度も抑圧的な男性と結婚し、家を飛び出している。
これが実話というのだから、また恐怖であり遣る瀬無さを感じたりもする。
その場で、言葉で解消できないほど男性が優位に立っているから。
だから、今作では最後まで男性からの抑圧という鬱憤がマーガレットに蓄積されていく。
それが、ラストの昇華に繋がった。
何より、自分の書いた絵を持って笑顔で、取材に答える彼女の姿がそれを物語っていた。
めでたしめでたし。