何にも無いけれど、何でもある。
バックグラウンドは気にしない。
在るが儘でいい。それがとてもハートフル。
素朴でも、本当に自分が大切にしたいものを探しに。
作品情報
制作年 2005年
制作国 日本
上映時間 102分
ジャンル ドラマ
監督
萩上直子
キャスト
小林聡美(サチエ)
片桐はいり(ミドリ)
もたいまさこ(マサコ)
あらすじ
ある日、フィンランドはヘルシンキの街角にオープンした小さな食堂「かもめ食堂」
店長である日本人女性サチエは、「シンプルで美味しいものを」のコンセプトで、メインメニューをおにぎりとしました。
しかし、来る日も来る日も来客はなし。
毎日、真面目に生活していればいつか客は来ると思っていたサチエでした…
感想・考察
在るが儘で、ハートフル
小林聡美さん演じるサチエ
片桐はいりさん演じるミドリ
もたいまさこさん演じるマサコ
という3人の女性をメインに、ヘルシンキでの人々の穏やかで温かい日常を描く。
2005年といえど情報を得る手段がネットではなくて、人づてというのが温かい。
それによってサチエとミドリは出会い、そこに荷物を無くしたマサコも加わる。
いくら現代がオンライン・オフライン共にフラットになったとは言え、日本からすればフィンランドは極地だ。
そんな極地だからこそ日本人同士で集まることの、おくゆかしさを感じる。
そして、3人を含めて登場人物は様々なバックグラウンドを抱えている。
はず。
にも関わらず、それには触れずに。
今、在るが儘のひととなりを包容するかのようなそれぞれの言動。
それがとてもハートフル。
何にもないけどなんでもある、よ
とある地方都市の記事で書かれていた。
「何にもないけど、何でもある」と。
反対に東京は
「何でもあるけど、何にもない」と。
この表現が正しいか、間違っているか。
そんなことを考えるなんていうのは、愚行だと思うし、その人がどう思うかで良い。
ただ、この作品には、前者の「何にもないけど、何でもある」ような映画に感じたのだった。
だから、引き込むパワーを感じたし、主観的にはなるが良い映画だと感じた。
こういう、ハートフルな映画はどうやって作られているのだろうかと思う。
狙って作れるものなのか。
どうもそれが不思議。
狙って作れるものなら、映画的にもビジネス的にも凄いこと。
アクション映画とか、そういうものであれば、狙って観客を引きつけやすいのかもしれないけれど、この手の映画はそうはいかないだろう。
だから、今作の製作陣は特に凄いと思う。
1つ自分の期待したところがあるとすれば、もう少しだけフィンランドの街並みを見たかったなあと。
人に焦点を当てているので、致し方無いのかも知れない。
素朴だけれど、本質的なもの
印象的なシーンに、サチエがヘルシンキで食堂を始めた理由を語るシーンがある。
どうしてここで?というミドリの問いに
素朴だけど美味しいものをわかってもらえそうだから。と答えたサチエ。
これが沁みた。僕の心をこの映画で染めてくれた。そんな風に感じた。
サチエの過去は明確には描かれていないけれど、日本に些細なことでも何かしらの不満があったから、日本を出たのだろう。
そして、それをヘルシンキは変えてくれる力があったから来たのだろうと思った。
けれど、それを成すのは全部自分の中にあるのだと、彼女を見て思う。
そして、それが周りの人にも波及していく。それが心地良い。
日本では、表面を準えていて本質が見えていない。とサチエは語っているようだった。
現代の「インスタ映え」なんてその骨頂なのかも知れない。否定的な意味ではないけれど、いわゆる本質であったり、自分が本当に良いと思うもの、ことを良いと思いたいし、それを発信したい。
だから、今作は良い映画だ。と、ここに書いておく。
エビデンスやロジックを並べて書くこともできるけれど、それよりも大切なものはこの映画にあったのかも知れない。
終盤で、日本人とフィンランド人がおにぎりを囲む姿が忘れられない。
そして、お客さんが沢山店に入っているシーンは、こちらこそ何だか嬉しくなってしまった。