映画「シング・ストリート 未来へのうた」監督・キャスト、あらすじ・感想 ミックステーマ

5.0

放漫なコナーの兄貴もコナーのサクセスに倣い歩み始める姿が美しい。

複雑な環境に身を置くラフィーナと無垢なコナーを対比させ彼女を高貴な存在に押し上げるのはもちろん、彼の無垢な姿が瑞々しく清々しい。

作品情報

制作年 2015年

制作国 アイルランド、イギリス、アメリカ

上映時間 106分

ジャンル ドラマ、ロマンス、ミュージカル

監督

ジョン・カーニー

キャスト

フェルディア・ウォルシュ=ピーロ(コナー)

ルーシー・ボーイントン(ラフィーナ)

ジャック・レイナー(ブレンダン)

マリア・ドイル・ケネディ

エイダン・ギレン

ケリー・ソーントン

あらすじ

大不況にあえぐ85年のアイルランド、ダブリン。

14歳の少年コナーは、父親が失業したために荒れた公立校に転校させられてし待った上に、家では両親のケンカが絶えず、家庭は崩壊の危機に陥っていた。

最悪な日々を送るコナーにとって唯一の楽しみは、音楽マニアの兄と一緒に隣国ロンドンのミュージックビデオをテレビで見ること。

そんなある日、街で見かけた少女ラフィーナの大人びた魅力に心を奪われたコナーは、自分のバンドのPVに出演しないかとラフィナを誘ってしまう。

慌ててバンドを結成したコナーは、ロンドンの音楽シーンを驚かせるPVを作るべく猛特訓を開始するが…。

感想・考察

人情味のあるコナーの兄貴もコナーに倣い歩み始める

今作は、コナーをはじめとする少年たちの音楽にまつわるサクセスストーリーに仕上がっている。

なのだけれど、実はポイントになっているのはコナーの兄の存在である。

 

コナーの兄は自分の夢を両親に阻まれ夢や目的を失い、大学は中退し登場する度に煙草を吸い込むニート状態。

物語を進めてもコナーを応援はするけれど、自分では何もしないダラダラの生活を送っているし、いきなり怒鳴りだすようなシーンさえありコナーは怯えている。

一見すると放漫で情けない。

 

けれど、終盤では兄である所以を見せつけてくる。

というのも、”コナーの旅立ち”を誰よりも、そして自分ごとのように心から喜んでいるから。

言い換えれば、弟思いの人情味のある兄貴であり、コナーに向けた強い言葉も全て彼なりの愛情にも思えてくるのだ。

 

放漫で怠けていた彼が、「自分の夢を弟のコナーが実現してくれるかもしれない。」というコナーへの期待や誇らしげになって嬉しさを爆発させる彼の姿を見ると、こちらまで嬉しくなってしまう。

なので、これはコナーのサクセスでもあるのだけれど、兄の鬱憤を弟が晴らし、彼を解放し、彼が新たな道を歩んでいけるようになるまでの、彼のサクセスストーリーの序章的な映画にもなっているのだ

複雑な環境に身を置くラフィーナと無垢なコナー

コナーの兄と並んで、今作において重要になってくるのがコナーが一目惚れして声をかけたラフィーナ。

 

物語当時のイギリスは、「音楽をやるならイギリス」というロックの聖地的な側面があろ、憧れの地だった。

そんなイギリスへ、ラフィーナは年上の彼氏と渡ると約束しながらも、その約束は彼が中途半端なことによって夢破れる。

そんな、彼女とコナーはラストでイギリスへ渡り新たな歩みを進めることになるのだけれど、それが今作のサクセスストーリーち呼ぶ所以。

 

序盤、ラフィーナに一目惚れしたコナーは、感情を抑えることができなくてキスをするのだけれど、途端に我に帰ったコナーはキスなどしていなかったかのようにラフィーナの彼氏の話を始める。

その透き通ったようなコナーの思いは瑞々して、清々しさを覚えるのだけれど、それだけでは終わらないのが今作の肝になる部分。

「台無しね」といってラフィーナはその場を去るのだ。

恥ずかしさを覚えたコナーとは対照的にラフィーナはその状況を心から楽しんでいたように見える。

 

15.16歳の少女が、ここまで落ち着き払いロマンティックな展開を自ら阻害した彼を避けることで、コナーの無垢さとラフィーナの複雑で大人びた様子のギャップを感じることができる。

それによって、コナーは思春期の葛藤のような物を覚えるわけだし、ラフィーナをより高貴な存在へと押し上げる要因にもなっている。

それが思春期の少年の恋をより美的にも見えてくるし、彼女が一筋縄では行かないという認識を与えることによって、物語の展開を一層期待する起伏にもなっているシーンなのだ。

 

さらに言えば、ラフィーナの家庭環境は両親がおらず、養護施設で生活しているというのもポイントだ。

それが彼女を年齢以上の大人びて複雑な少女へ変貌させたのは明白だし、その背景にあるのは大不況にあえぐ85年のアイルランド・ダブリン情勢。

そんな時代背景を効果的に挿入しながらも、まだ幼い少年・少女に視点から写すこで物語の奥深さが出てくる。

というのも、コナーの父親を例にすると、彼は不況のあおりをダイレクトに受け失業しているが、これは金銭的なものなので身の上話であり、何処かロジカルにというか冷静に見れる節がある。

一方で好奇心旺盛なコナー達は大人よりも時代の影響をたくさん吸収し、それが心のダメージになっている。それを音楽で表現し悲痛な叫びを唱えているから奥深く感じる。

ギグで最後に歌った彼らの「ブラウンシューズ」は、正に彼の受けた心のダメージを歌に乗せ、抗うことのできない教師や社会への反骨心を体現していた。

コナーと僕は似ている気がした

作品が始まってすぐ、コナーは一目惚れしたラフィーナに問う。

「僕のバンドのPVにでない?(まだバンドもない)」

僕がよくあるパターンはクライアントさんに「その仕事できます(やったことない)」

こんな具合の見切り発車で仕事取って、発車後に考えるパターンだ。

実際、それが良い方に働くこともあるのは事実だけれど、大体は自分を苦しめたことなる。

 

コナーは、これが発端となり自分の生活の全てが音楽になった。

学校のテストなんて御構い無しに音楽に打ち込む姿は一見美化されているようだけれど、彼が軽率なせいで失恋したりぶん殴られたりと大変な目にあっているのも事実。

僕の場合は、とりあえず仕事はとったけれども、やったことがないのでガリ勉になり、寝ずに、納期ギリギリに間に合わせるという末路なので側から見ると滑稽かもしれない。

しかし、コナーも僕も結果的に自分を追い込むのだけれど、最終的にはそれがポジティブに作用してくる。

美化していえば、”成長”がある。

 

「挑戦無くして成功なし」とはよく言ったもので、両者とも失敗もあるのだけれども結果自分の成長につながるので”終よければ全て良し”的な感じ。

僕は成功しているのか、成長しているのか、良しなのかわからないけれど、まあ生きてるから大丈夫だろう、なんだかんだで積み重なっている気はしている、ような気がしているだけかもしれないけれど。

まあ、クライアントさんにしても納品されたものが満足いくのであればプロセスなんてどうでもいい訳で、僕も晴れてお金をもらえるので、双方OKだ。

 

コナーも結果的に渇望していた物をつかみとることができたわけだし、さらに兄の夢を抱えて夢を追うことになった。

そんなこともあって、今作は僕とリンクするところもあり、非常にお気に入りの作品となった。

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