面白すぎました。「ドラゴン・タトゥーの女」が非常に腑に落ちる作品だっただけに、その続編ということで比較してしまうと、どうなるかと思いきや。
正直リスベットはやはりルーニー・マーラが好きですが、クレア・フォイもまた違って素敵な演技でした。
テーマも演出も脚本もグラフィックも何から何まで素晴らしい。
非常に完成度の高い映画に感じました。
作品情報
製作年 2018年
製作国 アメリカ
上映時間 115分
ジャンル ドラマ
監督
フェデ・アルバレス
キャスト
クレア・フォイ(リスベット)
スベリル・グダナソン(ミカエル)
シルビア・フークス(カミラ)
ラキース・スタンフィールド
スティーブン・マーチャント
あらすじ
ドラゴンタトゥーを背中に刻んだ天才的なハッカーのリスベットにAI研究の権威者から核に関するプログラム奪還の依頼が舞い込む。
しかし、それはある人物の引き金だった。
彼女はジャーナリストのカミエルと再びタッグを組み、自らの人生に向き合う。
感想・考察
キャストと監督 映画としての完成度の高さ
前作のジェームズ・ボンド演じるカミエルにルーニー・マーラ演じるリスベットが感情論的にとても好きでした。
なので今作はワクワクと心配で期待値は低めで鑑賞しようと思いつつも、期待を抱きながら見始まってしまいました。
シリーズ物を期待して見始めてしまうと公開するので、気をつけていたのですが、つい。
しかし、しかしです。本当に良かった。
もちろん映画を構成する要素は無数に存在するのでそれぞれが上手くハマったのですが、特筆すべきはやはり監督フェデ・アルバレスさんでしょう。
前作の監督であり、かの有名な鬼才デビット・フィンチャー監督をも超える勢いに感じました。
彼の作品は「ゼブン」「ファイトクラブ」「ベンジャミン・バトン」「ゴーン・ガール」と、有名どころには本当に感銘を受けていて。
個人的にはビジネス関係の本なんかは頻繁に読むので「ソーシャル・ネットワーク」も好きです。
もちろん双方共に素敵な監督なのですが、フィンチャーの「ドラゴン・タトゥーの女」の続編ということで相当の物を背をって製作したに違いありません。
製作総指揮という形でフィンチャーが加わっていたので、彼の色がかなり入っている可能性が高いことは置いておいても、素晴らしい作品でした。
やはり、他の方のレビューを見ると点数は低めです。
もちろんいろんな見方があるので承知の上ですが、もっと評価が高くても良いのではないのかと思いました。
作品として単体で見れば、同等に素晴らしく感じます。
製作年代による評価の違いかと思います。
最初に作ったからフィンチャー作品の方がどうしても評価が上がってしまうのであって、同年代に製作されたとすれば、こちらの方がこう評価がついたのではないかとすら思います。
アーティスティックでサイエンティフィック
オープニングは前作ほどのインパクトはないものの黒をベースとしたサイエンティフィックかつアーティスティックなグラフィックは、前作に引き続き素晴らしい。
引き込まれます。
チェスを通して
冒頭の少女期に妹としたチェスのシーンとの対比として、依頼主の横のアウグストのスマホにもチェスのアプリ、リスベットとアウグストのチェスをさすシーン。
それぞれ意味深で考えさせたらました。そしてそういう演出も時系列に沿ってしっかり回収していくのが巧いです。
子供ながらにスタイリッシュでクールで
チェスでアウグストが天才ハッカーであるリスベットに勝つシーンは印象的です。
そして、その記憶力やインテリジェンスに優れる言動は子供ながらスタイリッシュでクールです。
黒な、闇な、世界で
前作同様に、黒をベースにした世界観は女性陣の抱える葛藤や闇を効果的に映し出しています。
それがまた異様にアートを感じます。
そして、今回も多用される喫煙シーンがその感情をさらに引き締めてくれます。
ドラゴンタトゥーもそうですが、ファッションやインテリア、車、バイク全てがあって、この世界観を構築しています。
そして、そのくらい世界に刺される赤が異常に引き立ちます。
赤というのもまた、ポイントで血としてそのまま具現化されていたり、血縁関係という面でも上手く活用されています。
用語の意図的には異なるものの、言い換えればコミットメントとでも言えるかもしれません。
血縁という物に縛られ大衆的な共通価値観である約束を果たすというような意味で。
制作陣のこだわりと勝負師
画面越しのスクリーンの中にに映し出される映像にも凝っています。
自分という画面を見ている自認のある存在がいて、その画面の中にさらに画面があってそれを目視する時の不思議さ。
そして画面の画面にうつされたSF感のある描写の与える印象も大きいです。
ここまで凝るのか、と。
男を揶揄するような絵文字なんかも凝っています。
一見小さなポイントではありますが、それも上手く作り込んでいる点に制作陣のこだわりを強く感じます。
そして「ドラゴンタトゥーの女」に負けない作品をという思いも感じます。
勝敗ではありませんが、負けないどころか勝ちに行っているからこそここまでのこだわりが生まれ、作品になるのでしょう。
演出の匠
地上のスローモーションに水中のスローモーション、氷上のバイクシーンなどなど、スローを効果的に活用した演出も見ものです。
アクションも素晴らしくて、アクションシーンだけを切り取っても十分に良い映画体験です。
薬を打たれてアンフェタミンを服用するシーンのリスベットの演技は抜かれました。
朦朧としている表情に加え体の動きが、うますぎる。
ドラッグをやったことがあるのではないかという程に。
いくら他の人の演技を見たところで、主観的にあそこまで上手く落とし込めるのは本当に素晴らしいです。
しかし、気になったのが、アンフェタミンは一般家庭では禁止されてるはず…?ということです。
よくよく考えたら海外では、この手の薬は日本と違って容認されているんですね。
黒の中の赤の意図
暗い世界に真っ赤の衣に身を包んだ女性が黒幕でありながらも、もっともリスベットに近しい存在であるにも関わらず対峙するのは心苦しかったでしょう。
さらに、冒頭のようなバックグラウンドに加えジャケットにあるように16年間の歳月。
リスベットの格好よさ
リスベットといえば真っ黒のバイクですが、今作では車も多用されていました。
そして、車といっても艶消しのマットブラックのランボルギーニ。
ランボルギーニ自体は音もビジュアルも好みではありませんが、リスベットが乗ると異常に格好良く見えてしまいます。
やはりなんでもそうかもしれませんが、人なんですね。
妬みでもないのですが、渋谷なんかで乗り回している日本人とは訳が違います。
スケールの問題でしょうか。自己優越感を満たすためのブランドとして乗っている人と比べて、リスベットの表情からわかるのはアウグストの憧れやスピードを重視したからより格好良いのです。
カメラワークについて
ピンボケのフォーカスやカメラワークも本当に見事。
それによって闇に縁取られた一族の末路を効果的に表現していました。
しかし「ドラゴンタトゥーの女」よりも心理的描写へのアプローチは弱いかもしれません。
今作はどちらかといえば、エンタメ性の高い作品でしょう。
娯楽としての大前提があった上で語るならば、今作の方が映画的で楽しめる作品です。
ただ個人的には前作のような心理描写にフォーカスした映画も好きです。
文字通りの画面に釘付けとなる映画でした。