美しく男を惹きつける魅力のあるマレーナを、群集心理によりシナジー的に表現された虚構がもたらした恐怖。
ビジュアル的にホラー要素があるわけではないが、群集心理による恐怖体験が、この映画には。
作品情報
制作年 2000年
制作国 イタリア、アメリカ
上映時間 92分
ジャンル ドラマ
監督
ジュゼッペ・トルナトーレ
キャスト
モニカ・ベルッチ(マレーナ)
ジュゼッペ・スルファーロ(レナート)
あらすじ
シチリア島に住む12歳の少年レナートの視点から写る、戦争という混沌の時代や思春期を境に女性への憧れを描いた作品。
彼の住む島へ移住してきたマレーナに彼は淡い恋心を抱くように。
しかし、彼女を妬み暴言を吐く街の人々。
エスカレートしていく言動によって虐げられる彼女を待ち受ける未来とは…。
感想・考察
美しさと嫉妬
「シューシネマパラダイス」で有名なジュゼッペトルナトーレ監督の作品。
主演のモニカベルッチが世界的に評価され始めたのも今作がきっかけだそうで、それも頷ける。
そのビジュアルで惹きつけるカリスマ的な美しさは勿論、それが故に嫉妬をかう姿が腑に落ちてしまうのが怖い。
これ程男性にチヤホヤされれば街の女性が狂うのも納得。
そして群集心理はネガティブな物事ほどほど肥大化させてしまう事も上手く描かれてる。
ファシズムの台頭したムッソリーニ政権
政治思想ファシズムの構築によってムッソリー二政権が誕生した1940年が舞台。
街並みの再現が非常に凝っているように感じる。マレーナの歩く道なんかは素晴らしい。
レナートが自転車を買ったその日からイタリアはイギリスとフランスに宣戦布告し戦争が始まる。
ただ、自分の戦争の印象というのは、貧しさがもたらすものであって戦争によってそれがさらに悪化するというイメージ。
今作では少年にも関わらず自転車やレコードなんかを持っていて経済的な貧しさは感じさせません。
歴史の知見が浅はかなので断言は出来ませんが、1940年という時代において物的にこれ程満たされているにも関わらず戦争というのも少し違和感を覚えました。
戦争への参加を喜ぶ人々は何を思ってそう歓喜していたのか分からない。
これもまた群集心理なのでしょうか。
ネガティブな物事ほど増大する群集心理
群衆のネガティブな物事ほど大きくなるという現象は恐怖でありながら、実に人間的であるようにも。
揶揄的表現をすれば、これは今も健在。
良い事にもっとシナジー的になれれば良いのですが、人の心がもたらしたものは愛や勇気の様なポジティブなものよりも、憎悪や虚構なのかもしれない。
悲しくもありますが現実を見ればそう思わざるを得ないのも事実です。
いくら映画とはいえ、進行している人の像を叩き落とす、折るというのは過激です。
戦争がもたらすネガティブなものを効果的な演出ともとれるし、それほど鬱憤が溜まっていたというのもわかりますが、道徳的に良くないのでは、と。
粋なレナート
レナートが12歳ということもあり、女性への感情を窃盗やストーカー的な行動で表現しているのも巧いとは思いつつ犯罪的行動では有ります。
しかし、そんなレナートがどうにかマレーナに近づくため、大人らしく振る舞おうとする姿は愛らしい。
そして言葉で伝えれるようになったレナート。
そんな彼の成長のお話であるようにも見てとれる。