映画「スモーク」監督・キャスト、あらすじ・感想 煙に巻かれた人々のパラドックス 最後は煙の様に去る

映画「スモーク」監督・キャスト、あらすじ・感想 煙に巻かれた人々のパラドックス 最後は煙の様に去る

人という点を煙草屋を介して線に。

自分への内的な嘘、人への外的な嘘。

嘘と誠のパラドックス、そこにある人間模様と葛藤。

このジャケットの意味がラストで心地良く昇華される。

作品情報

制作年 1995年

制作国 アメリカ

上映時間 113分

ジャンル ドラマ

監督

ウェイン・ワン

キャスト

ハーベイ・カイテル(オーギー・レン)

ウィリアム・ハート(ポール・ベンジャミン)

ストッカード・チャニング(ルビー・マクナット)

ハロルド・ペリノー(ラシード・コール)

あらすじ

ブルックリンの煙草屋の店長オーギーは14年間毎朝同じ時間に写真を撮っている。

彼の常連であり、事故で妻を亡くしてから筆を持てずにいる作家のポールは、ある日、車に惹かれそうになるところを黒人のラシードに助けられる。

数日間ラシードを家に泊めることになるが、ラシードの叔母と名乗る女性が現れ…。

感想・考察

煙草ではなく煙草屋を介した人間模様

観る前のイメージというと、煙草の演出に力があり、そこに見え隠れする人間の機微にフォーカスした作品であると予想していたが、それよりも煙草屋という1つのコミュニティがもたらす人の繋がりが描かれていた。

オーギーによると、「煙草の煙の重さを計れる。吸う前の煙草の重さから吸い殻と灰を差し引けば良いのだ。」らしい。成る程。

諸説ありますが、煙草によってストレス解消になるという効果、またそう思い込む作用。

すると、煙草によって葛藤や想いが昇華されるのかもしれない。

煙草によって葛藤や想いが更に増幅しネガティブに作用する事も。

そのうち煙草屋は営業停止ともありましたが、今から20年以上前にすでにこの考えがあった事を知らなかった。

当時はその健康性や社会性よりもビジネスの側面が強くて兎に角売りまくるという趣旨と思っていたけれど、よくよく考えれば30年前には「風の谷のナウシカ」に見られるように環境問題への示唆というものがあったわけで。

4000日休まず営業するオーギー

オーギーは何気なく4000日1日も休まず営業しているということですが、これはとてつもなく凄いこと。

マズローの欲求五段説で言えば、生理的、安全欲求は大衆は怠ることがないし、社会的欲求も基本的には怠らない。

しかし、この期間休まずというのは、此処で言う煙草屋でいる事の威厳欲求や毎日写真を撮るという自己実現欲求によって他の物事を大多数の淘汰せねば成し得ない。

彼にとっては仕事が生き甲斐というのがピタリとハマる言葉。

自分は威厳欲求や自己実現欲求にあたるものを1年として継続できた試しが有りませんので14年凄過ぎる。

 

彼にとって煙草屋も写真も一生をかけたプロジェクトであり此れからも体が病むまでは止まる事は無いのでしょう。

単に街角記録ではありますが其れほど没頭出来るというのも良くも悪くもですが感嘆。

そして其処にポールの愛した妻の写真があった時にはやり場の無い気持ちと見ない方が良かった。

見れてよかったと様々な気持ちのぶつかり合いがあったという葛藤。

正直と嘘のもたらす人間模様

オーギーは極端に正直であり嘘をつくのを嫌い、その対比としてラシードの嘘つきが描かれている。

一般論で言えばオーギーは良しラシードは悪しと言われるのだが、ラシードにとって嘘が自分を守る1つの方法であって、するとそうさせた社会に問いを立てるかのような演出には巧さを感じる。

そんなラシードのいざこざから電車の長いカットでゆらりと昇華させてくれる

人間は基本的に死に向かって生きる訳ですが、その死を生きているうちに実感する場面というのは基本にないのだけれど、煙草には生と死を感じさせてくれるという力があるよう。

煙が生に悪影響な物だとすれば、生きながらに煙を吸い込むことは死を実感させる。

 

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