映画「耳をすませば」監督・キャスト、あらすじ・感想 メッセージ、メッセージ、メッセージ

過去1くらい長いレビューになりましたが、そのくらい強く素晴らしいメッセージ性を感じる今作でありました。
自分事として気付きや勇気をくれるお話。

作品情報

制作年 1995年

制作国 日本

上映時間 111分

ジャンル アニメ

監督

近道喜文

キャスト

本名陽子(月島雫)

高橋一生(天沢聖司)

立花隆(雫の父)

室井滋(雫の母)

あらすじ

読書好きの中学3年生雫は図書カードに連なる天沢聖司という名前を見つける。
聖司は雫の借りる本を全て先に借りており、そんな聖司を気にかけるようになる。

感想・考察

声優は、あの高橋一生さん

聖司の声優を務めたのは、今ホットな高橋一生。
当時、中学3年生の彼はこの収録後数週間で声変わりが始まったという。
そう思うと制作側の声優の選定には驚きました。
彼が芸能生活長いのは知っていましたが、まさか彼が声優だとは…。
ジブリ作品の目の付け所は本当に凄いものがあるんですね。
しかし、劇中では彼の声の面影が殆どありませんでした。
ふとした時に、「あ、高橋一生の声だった」となるくらい。

街のグラフィックの秀逸さ

まず素晴らしいのは街のグラフィック。
95年の作品のいう事で、自分の生まれる前にここまで完成度の高いグラフィックになるのかと。
個人的にコンビニが圧巻でした。
そして淡くノスタルジックな街並みには、雫と聖司を始めとする彼女らの友人関係も含めた中学生の淡い恋愛模様が投影されているかのようでした。

環境問題の示唆として

ジブリ作品には「ナウシカ」や「もののけ姫」を筆頭に環境問題を示唆する描写があるわけですが此方の作品でも予想外にその描写がありました。
ビニール袋の無駄使いという形で表現されていました。
環境に対して〜という描写はなかったのですが曖昧ですが、ジブリならこのビニール袋には環境問題に対する示唆的なメッセージ性があると思っています。

普遍性のある日常への揶揄的表現

ジブリ作品というと、先述の作品や「千と千尋の神隠し」「となりのトトロ」あたりが有名だと思いますが、それらはファンタジックであり、紐解き解釈を深めるほどにメッセージ性が深く、難解であるようにも感じます。
しかし、此方の作品に登場するのは、所謂”普通”の中学生や何処と無く”ありふれた”街であるようです。
この物語を深読みする程に、寧ろ自分事として落とし込みうるメッセージ性に富んだ作品であるとも思えてくるのです。
シンプルで誰もが経験したことのあるような高校生時代や街並みから垣間見れる演出というのは、一億総中流社会を構築していった日本社会では殆どの人に思い入れのある経験の追体験であります。
学校のシーンで出てくる「漢字テスト」「テストを後ろの席から集める」「お弁当」どれもが懐かしさを感じます。
それは大衆に向けた、効果的なマーケティング手法であるとともにこの物語を深読みしなくては差別化されず理解されないとも言えるでしょう。
それゆえ他の作品よりインパクトで落ちるこの作品にはジブリシリーズの中ではネガティブな見解を受けることが多いのではないでしょうか。
しかしながら自分はこの作品の持つメッセージ性を考える程に、素晴らしいと思えるのでした。
まず街の作りが「千と千尋の神隠し」に非常に類似しているのです。冒頭の引越し先に向かうシーンにある車で通る坂道。
今作のスピンオフとしての「猫の恩返し」双方で重要になるバロン。
それもあって地球屋のグラフィックが非常によく似ていし、「借り暮らしのアリエッテイ」の家の内装にも似ている。
また物語の鍵となる鉱石の位置付けも「天空の城ラピュタ」を想わせました。

利他主義的が利己主義的な結果論へ

正直理解しにくい点もありました。
恋愛の展開がスピーディ過ぎて「このタイミングでそうなるのか」というシーンがチラホラ。
逆に中学生故の多感性というか感情の激しい動向を垣間見る事もできました。
そして雫の利他主義的に行なっていた言動が実は利己主義的になってしまっていたり。
中学生らしいそこに対する葛藤なんかは巧みな描写でありました。
聖司は一見中学生にも見えないような大人びた雰囲気があり爽やかですが、彼の本を読む理由も後付けかも知れませんが愛らしい。

音のセッション

雫と聖司のセッションから5人に増えてのセッションは音楽の持つパワーというか協力性なんかも感じることができます。
音楽を通じて人を惹きつける楽しめる。

抽象的なメッセージ

そこでメッセージ性をですが、「名前なんてどうでもいい」というシーンも印象的です。
自分の好きな言葉にシェイクスピアのロミオとジュリエットに出てくる「名前って何?薔薇と呼ばれる花を別の名前で呼んでも美しい香りはそのまま。」という言葉があります。
それを想起させました。
これからわかる事というのは、自分という存在やその方向性を決めるのは自分でありながらも親の反対と葛藤する子供の心情を効果的に表していると感じます。
学校の成績や勉強を重視する親と雫のやりたい物書きの中には揺れ動く葛藤がありました。
石を磨くと更に輝きを増すかもしれないがもしかしたらそのままの方が美しいかもしれない。
自分のスキルを磨いてもその先には成果が得られないかもしれない。そんな比喩的な表現も見事でした。
しかし、親からの反対を押し切りながらも自分の大切な事を気づける、また行動できる雫の姿は素敵でした。
「人と異なる生き方をするのは大変だぞ」という趣旨の父親の発言も一億総中流社会を構築する日本ではまさにその通りであります。
理にかなってる合理的な生き方は普通に勉強し進学することで父親のいう通りですが、それを跳ね除ける事でしか得られないモノというのは確かに存在するのです。
とにかく未完成でもアウトプットする事の重要性を褒め称えながら教えてくれたお祖父さんの姿も素敵でした。
背伸びしなくては見えない世界があるのですから。
自分は最近背伸びして失敗もあります。
辛くなる事もありますが、この作品を通して伝えられたメッセージ性は自分事として大きな意味を持ちました。
現代にも通じること物語を書き上げたジブリには本当感銘を受けました。
そしてテーマ曲「カントリーロード」が心に数段心地よく響きました。
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