内容的にはサスペンスということもあり予想とは裏切られるものの映画としての完成度においてフィンチャーは裏切りません。
サスペンスという大前提がありながらも、ドラマでもミステリーでもあり、そしてリスベットの恋愛的行動がロマンスでもあり儚くも美しい。
そして、そこに隠された反フェミニストである男達の抑圧。
更にそれに葛藤する美しき女性たちを描いた作品です。
作品情報
制作年 2011年
制作国 アメリカ
上映時間 158分
ジャンル クライム、ミステリー、サスペンス
監督
デビッド・フィンチャー
キャスト
ダニエル・クレイグ(ミカエル・ブルムクヴィスト)
ルーニー・マーラ(リスベット・サランデル)
クリストファー・プラマー(ヘンリック・ヴァンゲル)
スティーヴン・バーコフ(ディルク・フルーデ)
あらすじ
実業家ヴェンネルストレムの武器密売をスクープした記者・ミカエルは名誉毀損の罪で訴えられ全財産を失う。
そんな折、ミカエルは裁判の逆転に繋がる証拠を渡すという条件付きで、他の実業家から40年前に行方不明になった少女暗殺事件の真相を暴いて欲しいという依頼を持ちかけられる。
ミカエルはドラゴンタトゥーを背負った天才ハッカーリスベットと共に事件解決に奮闘するが…。
感想・考察
フィンチャー的のサスペンスタッチとフェミニズムの融合
デビットフィンチャーのフィルモグラフィというと有名どころは殆ど見ましたが、「セブン」は2年前くらいに見て衝撃を受けました。
サスペンス映画に惹かれたのも、その時からです。
うまく練り込まれたサスペンス映画というと、ラストに近づくまで観ている人の興味を離さず寧ろ高揚させて、最後で昇華してくれるので好きです。
この作品は最後の最後というよりはある程度高揚させたら本来の目的である依頼の結末がわかってしまいます。
しかしながらこの作品のテーマはその様なサスペンスチックなそこではなかったのだと思います。
今作もそんなサスペンスチックな要素が巧みに盛り込まれていて素敵な作品と期待して鑑賞しました。
しかし、此方は女性差別的なテーマを比喩したフェミニズム要素がふんだんに含まれている寓話的な物語でありラストでした。
そしてそのラストもサスペンス的に昇華してくれるのではなくて、リスベットと行動がひたすらに切ない。
ここを見て欲しいです。
ルーニー・マーラのカメレオン
リスベットの出演している映画というと「キャロル」も印象的で好きな映画の1つですが、良い意味で正反対の印象を受けました。
しかしそのに隠された性的な懇願ともとれる訴えには同じ性に対する葛藤があったのでしょう。
オープニングの巧さ
今まで見た映画の中で、1番格好いいと思うオープニングでした。
黒のドロドロした粘度の高い物体の示すものはフェミニストの抑圧的言動の事なのかもしれません。
絡み合うコードもその柵を表していたのかも。
そしてその黒の物体が女性に絡みつく様子。
オープニングでは単に格好いいと感じましたが、最後まで見終わったらコレが指す意味がわかった気がします。
一本の煙草と鬱憤
ミカエルが「マルボロの赤をくれ」と言って一本だけ口に咥え、残りは捨てるシーンが印象的でした。
勿体ない!と思いつつも痺れます。
どうしても自分の力だけでは紛らわせられない鬱憤を煙草によって如何にか昇華させたのでしょう。
主に2色で構成された世界 しかしモノトーンではない
驚いたのが服や街並み、インテリアなど映画に出てくる物や色使いです。
物は殆どが黒で統一されて非常にクールでスタイリッシュな印象を与えてくれます。
そして雪の積もる拠点の付近の映像からはシリアスな印象を。
逆に言えば白と黒以外はほとんど使われていません。
黒の物体と白い雪と対比して陰と陽として表現されています。
オープニングには黒のみだったので、劇中の希望を表現していたのかもしれません。
男性優位社会の抑圧
ビジュアル的にリスベットはクールで高貴で男の影響なんかは丸で受けないイメージでしたが、そのイメージであって欲しいと思いつつ、良い意味で払拭されました。
そしてそれが一番この映画で一番のポイントかもしれません。
法によって国に守られているから女性は生きることができる。
というのも納得ですが、それを敢えて男性から陵辱的に言われると女性を揶揄しているというのがわかります。
男性も法のもとで生きているわけで、その点を性的に乖離してマウントを取ること自体が矛盾しています。
しかしながら、それでも力がモノをいう、弱肉強食の世界でもあります。
すると男は身体的な力の差を利用し女性を性的処理の所謂道具として扱う。
今思えば道徳的、モラル的に酷い話です。
これも人間の動物的な本質を捉えた姿と言えばそれもそれです。
しかし、これは近年のお話なので男からの性的対象としてみられてしまうのは当然でもあり、どうしようも出来ない生まれ落ちた性に対する葛藤でもあり侮辱でもあり揶揄的表現でもある様です。
「ボビーフィッシャーを探して」が?
中盤でボビーフィッシャーが出てきたのも巧かったです。
見てる人ほとんどがどうでもいい様な点ですが、終盤にチェスのシーンがあるので上手く重なります。
練り込まれたいことがよくわかります。
心の豊かさと視覚的な豊かさの比例
二色がメインの白と黒の世界が主ですが、ミカエルが娘と会えた時には、緑の自然が映し出されます。
これは何気ない日常でも目を凝らして見れば、鮮やかに素敵に見えるということなんでしょう。
そして自分の娘に当たり前の様に会えることも実は当たり前でもなくて感謝の対象であるということを示唆させてくれます。
ピアス・タトゥー。痛みの象徴とメッセージ
ドラゴンという一見、比較的に男性的な象徴であるタトゥーを背負うリスベット。
そしてクールでスタイリッシュで強い。
そして沢山のピアスは痛みの象徴かのよう。
そして体格的にも女性の中では比較的男性的な体つき。
これが表すのは女性でありながらも、非フェミニストである男性に対抗する為のビジュアル設計だったのかもしれません。
言葉数の少ない彼女だけに尚更そんな風に想いを募らせ肉体的、ルックスで表現していた様に感じます。
それもフェミニズムとの葛藤からくるものなのでしょう。