映画「海賊とよばれた男」監督・キャスト、あらすじ・感想 山崎監督と岡田准一の仕事熱

ビジネスは綺麗事ではないが、行き過ぎた信念は、どこへ向かうのだろうか。

皮肉を交えながら展開した物語を引き締め、そしてラストのドラマチックな昇華へ向かわせる。

山崎監督と鐡造の間に重なる仕事熱。

作品情報

製作年 2016年

製作国 日本

上映時間 145分

ジャンル ドラマ

監督

山崎貴

キャスト

岡田准一(国岡鐡造)

吉岡秀隆(東雲忠司)

染谷将太(長谷部喜雄)

鈴木亮平(武流知甲太郎)

野間口徹(柏井耕一)

ピエール瀧(藤本壮平)

綾瀬はるか(国岡ユキ)

あらすじ

主要燃料が石炭だった時代から、石油の将来性を見抜いていた国岡鐡造。

彼は北九州の門司で石油業に乗り出すが、国内の販売業者や欧米の石油メジャーなど、様々な壁が立ちふさがる。

それでもあきらめない鐡造は、型破りな発想と行動で自らの進む道を切り開いていく。

やがて石油メジャーに敵視された鐡造は、石油輸入ルートを封じられてしまうが、唯一保有する巨大タンカー「日承丸」を秘密裏にイランに派遣するという大胆な行動に出る。

それは当時のイランを牛耳るイギリスを敵に回す行為だったが…

感想・考察

ビジネスは綺麗事ではない 行き過ぎた信念は、どこへ向かうのか

今作の一番の見どころといえば、岡田准一演じる国岡鐡造の狂気じみたビジネスへの熱。現在は、インターネットとデバイスの普及でフリーランス化が進み、スモールビジネスが次々に誕生していて、自分もその流れに乗った1人。今でこそ開業・起業のハードルが下がっているけれど、戦後の日本社会の物語を描いた今作において、どれほど自分で業を興すことが、難しく、そして熱が必要だったのかが、ということがひしひしと伝わってくる。そんな時代背景もあって、鐡造のビジネスへの姿勢が一層熱を帯びて見えてくる。そして、そんな彼の暑い姿勢は強く美しい。それが象徴されている言葉が「インフレ?違う!熱が足りんのよ!熱が!」だった。

けれど、単に強く美しいだけの綺麗事で語らないところが今作をドラマチックに仕上げ寓話的な側面の強い物語へと進化させている。というのも、彼のビジネスへの姿勢が加熱し過ぎたことが災いして、彼は大切な存在を失うからだ。それが、いかにも信念を持って闘ってきた男を、アイロニーの表現対象へとされてしまっている。そして、痛い主人公像へと転換させてしまっているのは異様に冷酷であり、制作側の皮肉にさえ思えてきた。

実際、彼は妻である綾瀬はるか演じるユキ、特に鐵造への忠誠の熱い従業員だった染谷翔太演じる長谷部喜雄を失うことになっている。別居、死別という別れ方に差異はあるものの、結果として鐵造はビジネスに全てを捧げた自分の弊害を身にしみることになる。しかし、彼はそれでもなお負けじと事業を成功させるために奮闘する。この彼の熱さの中に生まれた葛藤を跳ね除け、それでも信念を貫き事業に向き合う姿。これはビジネスマンだけではなくとも多くの方にとって、学びのある寓話的な映画になるということは想像に易しいのではないかと思える。それが皮肉を交えながら展開した物語を引き締め、そしてラストのドラマチックな昇華へ向かわせてくれる。

山崎監督と国岡鐡造の間に重なる仕事熱

近年の邦画業界を席巻していると言って過言でないのが、今作の監督を務めている山崎貴監督。「アルキメデスの対戦」では戦争という同様のテーマを扱っているものの、その切り口や見せ方に驚かさせた。「ドラゴンクエスト・ユア・ストーリー」ではVFXのパワーとドラゴンクエストワールドの親和性に痺れた。これらは2019年の映画で今作は2016年の映画なので、3年しか時が経っていないのにも関わらず、大きな差があった。それは一目にはビジュアル的なものが大きいのだけれど、見方を変えると監督の進化とも思えてきた。

VFXの隆盛が華々しいといえば、それもそう。しかし、それをこれほどまでに巧妙に効果的にその技術を扱うことのできる山崎監督の進化に驚く。そんなことを思っていると作中の言葉が蘇ってきた。それは鐡造の「侍の心で商売をする」「仕事はないないゆうちょらんで作るもんや!」という言葉であり、その結果、山崎監督と鐡造の間に重なる部分が見えてきた。それは仕事に対す2人の”熱”だった。

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